それは何気ない変化であった。双子のヒカリだからこそ気付くことが出来たのかもしれない。
例えば、日々行う修練の時間が少し長くなったこと。
例えば、深夜の修練場に一人佇む姿を見かけること。
そして例えば、昔のアルバムをそっと開いていること。
それまでの日常からすれば、ほんのわずかなことではあったが、姉であるカヤのそういった変化はヒカリの内にゆっくりと、だが確実にいいしれない不安を膨らませつつあった。
ヒカリには、なんとなくその変化の原因がわかっていた。
カヤの様子が変わったのは、数週間前の墓参りでハザマという人物に出会った頃からだ。
おそらくその時に、何かがあったのだろう。
だが、ヒカリが思いきって聞いてみても、カヤは何もないとしか答えてくれなかった。
ようやく訪れた穏やかな日々、そしてやっとその中に戻りつつある自分達の世界。それらが、今また崩れていくような予感がヒカリにはあった。
そして、その予感は当たった。それも最悪な形で―――。
カヤの突然の失踪。一通の書置きだけを残し、カヤは睦月家から居なくなった。
カヤの失踪から数日後、周囲にはこれまで通りに振舞いつつも、ヒカリは迷い悩んでいた。
カヤを追って自分も家を出るか、それとも大人しくカヤの帰りを待つか。 行き先は残された書置きで分かってはいたが、それだけである。カヤを追うにも、あまりに情報が少な過ぎた。
姉を心配する気持ちと祖父母を心配させたくない気持ち、二つの気持ちに悩むヒカリの足は、自然と父親の眠る元へ向かっていた。 以前はカヤと二人で歩いた道を、花と水桶を持ち今度は一人で進むヒカリ。 墓前で膝を折り、亡き父親に自分はどうすれば良いかと一心に祈るが、答えは返ってくるはずもなく、時間だけが過ぎていくのであった。
その墓参りの帰り、ヒカリが寺の門扉をくぐると、そこにはあのハザマが立っていた。
「ご機嫌いかがですか、ヒカリさん。」
穏やかにヒカリへ微笑みかけ、挨拶をするハザマ。その姿は非常に礼儀正しく紳士的である。
一瞬にしてヒカリの表情が硬くなり、その次には猛然とした態度でハザマに向かっていた。
敷き詰められた砂利が荒らしく踏み鳴らされる。
「お姉ちゃんに何をしたの!?なにを言ったの!?」
激しくハザマへ詰問するヒカリ。
「なにか誤解なさっているようですね。私はただ、6回目のF.F.S.が開催されそうなので、彼女に参加されてみてはどうですかと提案しただけです。 もし居なくなったのであれば、彼女は参加を決意し、ゾーンプライムへ向かったのでは?」
終始穏やか、且つ丁寧な態度をとるハザマに、ヒカリは不安を抱く。
“お姉ちゃん、ほんとに自分の意志で!?”
そんなはずはない、と浮かんだ思いをヒカリは激しく否定し頭を振る。その様子を薄く微笑みながら眺めていたハザマは一つ提案を出した。
「もし、お姉さんを追いかけたいのであれば、これをどうぞ。遠慮することはありません。F.F.S.に参加すれば、カヤさんも見つかるのではないでしょうか。」
そう言って、ハザマは漆黒の封筒―――第6回F.F.S.への招待状を差し出した。
ヒカリはゆっくりと、ハザマの差し出す招待状を受け取った。
何かを決意するように、ヒカリの表情が引き締まる。迷いは既になくなっていた。