クライアントと会う約束の時間まであと僅か。
シェリルは雨に冷える石畳をゆっくりと歩きながら、何気なく周囲に視線を巡らせていた。
幼い頃教えられ、いつのまにか自然と行えるようになっていた動作だ。
3人、いや5人、おそらくこれから会うであろうクライアントの関係者らしき影を周囲に確認するシェリル。
しかしまったくと言っていいほど、彼女の表情に動揺は見られない。
シェリルが約束の店に入ると、クライアントは既に来ていた。
どうやら時間にルーズではないらしい。
クライアントの依頼は、ある場所に保管されている情報を獲って来てもらいたいというものだった。
シェリルは理解した。
そのある場所とはPROBE-NEXUS社の本社ビルだったからだ。
確かに経験者へ依頼すれば成功率も上がるだろう、しごく合理的な人選だ。
ふとシェリルがクライアントの用意した資料に目を落とすと一枚の写真が目に入る。
そこには知った顔が写っていた。
シェリルの表情が僅かに動く。彼女がこの依頼を断る理由は無くなった。
シェリルは用意された前金と第6回F.F.S.の招待状を受け取ると、小雨の中へ消えていった。